3Dプリンターを活用して安価なデザイナーズトイを作る
映像やグラフィックデザインに関わる中で、3DCGのモデリングを行う機会が多いため、そのスキルを発展させてオリジナルのデザイナーズトイ制作にトライしました。この記事では、制作プロセスの中での発見などをアーカイブしています。
コンセプト
自身の3DCGスキルをさらに広げることを目的に、3Dプリンターを導入しました。(とはいえ、実際はほとんど趣味に近いのですが…。)
コミッションワークの流れでマーケット出品のお誘いをいただく機会もありましたが、これまで自分のノベルティ的なプロダクトを制作したことがなく、なかなか参加に踏み切れないのが正直なところでした。
その課題を自分なりにクリアする手段として、フィギュア制作に取り組むことにしました。
今回はロジックやコンセプトをクライアントワークとは完全に切り離し、作ってみたいものをフットワーク軽めに作りつつ、急なマーケット出品や量産に対応する上で、以下の条件に重きをおいて制作しました。
- 再現性があり、ストックの量産が容易なこと。
- 量産後の維持・管理がしやすいこと。
- 安価で販売でき、コレクタブルな要素が備わっていること。
メインの収入源はクライアントワークやコミッションワークで十分に担保できているため、大きな売り上げを狙うプロダクトではなく、自分の活動をプロモーションするためのプロダクトとして制作に取り掛かりました。
使用機材
最初の導入機材として、コストパフォーマンスと扱いやすさを重視し、プロダクトデザイナーの友人から勧めていただいた、Bambu Lab A1 mini 3Dを選択しました。専用のアプリケーションの難易度も低く、かなり扱いやすい印象です。
複雑なモデリングができなくとも、さまざまなアタッチメントがオープンソースデータとして転がっているので、DIY的にライフスタイルを豊かにするツールとしても、昨今の3Dプリンターは魅力的だと感じています。
留意点として、電源プラグが3ピン式なので、導入時に変換プラグを購入する必要があります。(※2024年時点に購入の機体)
キャラクター
Blenderを本格的に触り始めた2023年頃、練習としていくつかキャラクター的なモデリングを行っていました。そのデータを活かしてアイデアを広げていったのが、今回の制作の出発点です。
また、昨今の自身のWorksのトーンとも自然に呼応しており、活動全体の文脈ともつながりを感じています。
先述の怪獣のモデルデータをベースに、新たに3体の怪獣をデザインし、シリーズとして「電心怪獣 PIPIGON」と名付けて展開しました。最初に制作した怪獣の頭部にある角(アンテナ)のニュアンスを汲み取り、「以心伝心」と「ピピッ」という電子音を掛け合わせた、キャッチーなネーミングを考案しています。
カラー展開においては、ベーシックな配色に加え、蓄光やラメ入りのフィラメントも用いることで、多様なバリエーションを生み出し、コレクタブルな要素を強調しました。
モデリングと検証
初期設定のままでも十分な出力が得られるため、アプリケーション側の設定を細かく調整するよりも、サポート材を使わずにきれいに造形ができるよう、モデルそのものの調整に時間をかけました。
というのも、サポート材を使うと、取り外したあとにイボのような跡が残り、それを処理する手間が増えることで、結果的に販売コストにも影響が出てしまいます。
パッケージを含めた出力後の販売価格を800円前後で想定し、それに見合った作業量で設計しています。
オーバーハング
初期ロットのデザインはリーズナブルなエディションを目指しているので、フィラメントの積層痕はパテ埋めなどは行わず、刷って出しで綺麗な状態のモデルが出るように設計しました。
丸みのあるオブジェクトの場合だと、どうしても顎や目の下は多少のオーバーハングしてしまいますが、形状が大幅に破綻しない程度ならOKというスタンスで制作しました。サポート材を使用しないためには土台部分の安定感も重要なため、ウルトラ怪獣の指人形のような、やや寸胴形の懐かしさも感じるフォルムを目指して仕上げています。
シーム
プリント時に派生する積層のシームは背面に揃えて整えました。意図して明確な基準を設けることで、第三者的な視点から見ても仕様として判断してもらい、製品としての説得力を持たせることがねらいです。
パッケージ制作
デザインやカラーバリエーションが増えてきた段階で、在庫の増減を均一に保つためと、購入者に取り扱い上の留意点を伝える目的から、パッケージを制作し、ブラインドボックス方式へとアップデートしました。
パッケージに関しては、従来のデザイナーズトイのように「それらしい」ロゴを制作することも検討しましたが、大量生産品ではないインディーズ的な立ち位置を重視し、その面白さや柔軟性を優先しました。
直近でMSHRの個展に伺った際、物販ブースに並んでいたファブリックやUSBメモリなど、アートワークと深く結びついたグッズに強く感銘を受け、今回の参考としています。
購買層はどうしても限定的になりがちですが、単純なコマーシャル性に依存するのではなく、自身のワークスが持つ「可愛さ」と「クールさ」を文脈として汲み取り、どこか呪術的な気配と、制作者自身のフェティシズムを滲ませることで、パッケージで全体の世界観を表現しました。
また、パッケージを制作することで、グラフィックデザインと3DCGという、自分自身のリソースをフルに活用できたと思います。
マーケット出品
都内をはじめとして全国区で開催されているZINE FESTで柿落とし的に販売を行いました。一日大体5時間くらいの販売時間で売り上げが1.5〜2万くらいできるので、売り上げのことはあまり考えていないと言いつつも、想定上の反響で大変ありがたいです。
先述の通り、グラフィックの方向性としてはMSHRの物販に見られるような、やや呪術的なニュアンスにもフォーカスしています。現状、購入いただく方の多くは20代〜40代の男性が中心です。購買層を鑑みた際、今後は自身がVJとして登壇するクラブイベントなどでも販売できれば面白いのではないかと考えています。
それから、よくご質問をいただきますが、現時点でオンライン販売は予定していません。ショップ運営にかかる工数を踏まえると、今の段階では現実的ではないです。
その代わりに、プロダクトを介したフィジカルなコミュニケーションを軸に、実際に手に取っていただける機会を少しずつ広げていければと考えています。
今後の展望
現状、作業スペースに新しい3Dプリンターを設置する余裕がないため、実現はもう少し先になりそうですが、光造形による出力にもいずれは挑戦したいと考えています。
そのエディションは、従来よりもやや高めの価格帯を想定しつつ、研磨や塗装といった新たな工程を取り入れることで、デザイナーズトイとしての表現の幅をさらに追求していきたいと思います。