SKYTOPIA×TAMURA Ikuho Collaboration Project
目次
2024年8月より、Music ProducerのSKYTOPIA氏とのコラボレーションプロジェクトを継続的に進めてきましたが、このたび、その集大成となるEP『SIGNS』がリリースされました。これに合わせて、プロジェクトの中核であるMV制作に関する記事を執筆しています。
本プロジェクトでは、映像と音楽の制作を並行して進めるワークフローを採用し、互いの興味関心や課題を自由に解釈しながら、表現領域の拡張を目的に取り組みを行ってきました。MVの制作を起点として、EPのジャケットアートワーク、プロモーション用のリール動画などの関連ビジュアルも手がけましたが、今回の記事では、自身のグラフィックデザインのバックグラウンドを活かした領域横断的なアプローチに焦点を当て、主にMV制作プロセスにフォーカスした内容を展開しています。
コンセプト
近年、モーションポスターというフォーマットでの制作に取り組む中で、自身のメタスキル(※グラフィックデザイン、映像、タイポグラフィ、3DCGやビジュアルコーディングなど)をより高い粒度で応用できる、中尺の映像表現への関心が高まりました。グラフィックデザインのバックグラウンドを活かしつつ、ある程度の負荷を伴う新しいジャンルに挑戦することを、このプロジェクトのひとつの目標としています。
クオリティの定量化としては、『映像作家100人』に選出されるような視覚的強度と完成度を追求するとともに、プロジェクト終盤にはフィジカルな場でのアウトプット(展示や上映、パーティーなど)を設けることを意識して制作を進めました。
その結果として、2025年版の『映像作家100人』に選出いただき、仕事や表現のフィールドにおいても新たな展開やコミュニケーションが生まれたと実感しています。
スケジュール
例年通りであれば、『映像作家100人』の募集は年末年始に開始されるため、それを念頭に置きつつ、2024年内に3本程度のリリースを目標としてプロジェクトを進行しました。具体的なリリースのスパンや、プロジェクトを通じて発生したイベント(プレイリストへの選出やメディア掲載など)については、時系列で整理したスプレッドシートにまとめています。
なお、今回の取り組みでは、柔軟かつ実験的なアウトプットが可能となることを重視し、互いの表現領域の拡張を目的とした協働を前提としていたため、制作過程における金銭的なやり取りは行っていません。その代わりに、ストリーミング配信等から発生する利益については、スプリット(収益分配)に基づき折半する形式を採用しています。
Pu!se
本プロジェクトにおける最初のリリースとなった楽曲に対しては、無機質なオブジェクト群がまるで生命を宿しているかのように動く映像表現から着想を得て、《脈拍》や《鼓動》といった生体的リズムを想起させるタイトルを付与しました。
3DCGに限らず、平面的なデザインにおいても、幾何学的な構造や描画ロジックは自身の表現スタイルの中核を成しています。そのスタイルを踏襲しつつ、本作では、オブジェクトの「壁抜け」や、BagaPieなどのオープンソースアセットを、3DCGならではの演出として積極的に活用しました。独特の脱力感を現実感を排した“虚構の質感”をベースに据え、そこに内在する生命力を表現することを意図しています。
以下は、制作過程において参照させていただいた映像・資料の一部です。
本作の制作にはBlenderを主なツールとして用いており、エミッター機能を活用することで、各オブジェクトの挙動を制御しています。クライアントワークでは、PC負荷や納期といった制約の中で高密度なモデリングやシミュレーションに慎重になる場面が多いですが、本プロジェクトではスケジュール調整の自由度が高かったため、通常よりも高い処理負荷がかかる演出や複雑なオブジェクトを積極的に試みることができました。
Run
2曲目の『Run』では、エドワード・マイブリッジによる連続写真作品をモチーフに据え、映像制作を行いました。マイブリッジの取り組みには、ジョーダン・ピール監督の映画『NOPE』を通じて関心を持ちました。(同作は個人的にも強くおススメしたい一本です。)
本作の冒頭、およそ5秒付近のパートは、もともと実験的なスタディとして独立して制作していた素材であり、本プロジェクトの中で映像作品として再構成・昇華させたかたちになります。
近年、ビジュアルコーディング技術の普及により、ピクセルアートやアスキーアートといったルックは視覚表現の一形式として一般化しつつある印象を受けています。そうした状況から変化を出す解として、本作では「1マス」を構成する図形や、動物の動作といった基本モジュールを、アナログ手法で作画する方針を採用しました。
図形および動物の動きを捉えた連番画像が完成した後は、Adobe After Effectsを用いてアスキーアート風のコンポジットを実施しました。(振り返ってみると、TouchDesignerでのリアルタイム処理の方がスマートだったと感じています。)
コンポジット工程では、「図形Aはブラックポイント0〜ホワイトポイント50の範囲で出現する」といった明度条件に基づき、抽出キーを用いたレイヤー構成を行っています。これにより、明度幅ごとに異なる図形が出現する設計となっています。
MV公開後、各種動画プラットフォームにおける再生数には一定のばらつきが見られたものの、Behance上でAdobeによりキュレーションされるなど、当初は想定していなかったかたちで評価をいただく機会にも恵まれました。こうした反響は、制作の延長線上で思いがけず生まれた成果であり、大きな励みになっています。
FLUTERRA
2024年内の最後のリリースとなった『FLUTERRA』では、これまでとは異なるアプローチとして、ベクターアートのみによるアニメーション制作に取り組みました。自身の強みである幾何学的な構成力を基軸としながら、あえて質感的なテクスチャを排除し、色面による構成のみによって図形そのものの存在感や強度を際立たせる手法を試みています。
モチーフには、かねてより関心を抱いていた「生物」を選定しました。タイトルの『FLUTERRA』は、大地を意味する“Terra”と、楽曲中に印象的に用いられているフルートのような音色を掛け合わせた造語です。このタイトルには、生命や自然の根源的なエネルギーと、空気や風のような軽やかさを併せ持つ世界観を込めています。
色彩設計においては、多角的な検証を経た上で、最終的にピンクを主軸とする配色でFIXしました。幾何学図形が持つ視覚的な硬質性に対し、ファンシーで柔らかな色調を組み合わせることで、強度と親しみやすさを共存させ、落ち着きと遊び心を生み出しています。
また、本作ではシネマスコープ比を採用することで、画面全体にタイトな印象をもたらし、視覚的な緊張感を強調しています。映像の緊張感を演出することで、フレーム内の情報密度を効果的に制御する役割も果たしています。
ODORIBA feat. Sigma-T
本プロジェクトの最後を飾るミュージックビデオとして、集大成的な位置づけとなるEP『SIGNS』より、ラッパー・Sigma-T氏をフィーチャーした楽曲『ODORIBA』のMVを制作しました。
本作では、Sigma-T氏による「踊り場」という言葉を起点としたアナロジカルな発想を基軸に、「階段」と「怪談」という同音異義語の掛け合わせをモチーフとしたプロットを設計し、MVの舞台設定を構築しています。
映像制作においては、Sigma-T氏のキャッチーかつリズミカルなリリックの魅力を損なわないよう、あえてテクニカル演出や表現には寄らず、キャラクターのビジュアルやプロット展開そのものに重心を置いたアニメーション表現を目指しました。
本作では、クラブカルチャーにおいて頻繁に登場する「グレイマン」のキャラクターを軸に、物語を展開しています。彼らの名前は、映画『猿の惑星』からの引用で、それぞれ「コーネリアス」と「ジーラ」と名付けました。映像内で彼らの名前を明示することはしていませんが、制作中の没入感を高めるねらいと、今後のグッズ展開における設定の軸として設定しています。
また、登場する他のUMAや妖怪についても、一部はSFやオカルト作品からのオマージュをベースにデザインしています。そうした造形や設定の中に、サブカルチャー的な影響や遊び心を織り交ぜることで、文化的にも豊かなレイヤーを持った世界観の構築を目指しました。
まとめ
本プロジェクトは、自分にとっては映像表現に本格的に取り組む初の試みでもあり、全体のワークフローについては手探りの状態で進行しました。しかしながら、最終的には『映像作家100人』への選出という形でアーカイブされるなど、当初の想定を超える多くの反響をいただく結果となりました。
映像と音楽の制作を並行して進めるという体制においては、互いの表現領域に対する理解と柔軟性が制作の自由度を高め、想像以上にスムーズな進行が実現できたと感じています。テイクを重ねる中で、音と映像が互いに影響を与え合うプロセスそのものが、このプロジェクトの大きな魅力でした。
また、あらためて自身のキャリアを振り返ったとき、現場での人手不足や役割の多様化に対応する中で、場当たりに習得してきたスキルが、本プロジェクトを通じて明確に統合され、ひとつの作品として結びついたことにも意義を感じています。
なお、本プロジェクトの取り組みは世界のモーショングラフィックスをキュレーションする大手メディアの『Stash』や、米国のデザイン誌『Communication Arts』にも取り上げていただいておりますので、あわせてご覧いただけますと幸いです。
2025年9月24日 追記
大変ありがたいことに、斬新なイノベーションや、独創的なアプローチが評価される国際的なデザインアワード、International Creative Awardsにて、”SKYTOPIA - Run (Official Music Video)”がMusic部門でノミネートされました。
以前から注目していたアワードであり、他のノミネート作品もいずれも高い強度を備えていた中で、インディペンデントな取り組みを評価いただけたことは、大変光栄に感じています。
プロフィール
SKYTOPIA
Artist / DJ / Music Producer
ハウスやUKガラージを軸に、ポップな感性を活かしたキャッチーなサウンドを生み出す東京拠点のプロデューサー。ColdhotやKOMONO LAKEのメンバーであり、かつてはKero Kero Bonitoにも所属。ソロ作品のほかSincere、最上もが、DÉ DÉ MOUSE、okkaaa、Frasco、hamma、Emi Satellite、TAAR、ANIMAL HACKなど、幅広いアーティストとのコラボレーションやリミックスを手がける。また“FUNCORE”や“家onclouds”など、東京各地でイベントの企画・主催も行い多彩な活動を展開している。
田村育歩 / TAMURA Ikuho
Graphic Designer / Visual Designer / Video Artist
愛媛県出身。東京都在住。尾道市立大学芸術文化学部美術学科を卒業。広告、宣伝美術、音楽アートワーク、ミュージックビデオなどのクライアントワーク、コミッションワークを中心に活動。 新しい情緒的価値の創造を目指し、ビジュアル制作から様々な媒体への展開も視野に入れた、領域横断的な視覚表現を追求している。昨今はライフワークの一環として、3Dプリンターを活用したフィギュア制作や、VJパフォーマンスにも注力している。